春
すずらんは盛りがついたようだ。
昨日綱が自然にほどけて久しぶりにフジイくんと逢引きをしてしまってから、
ずーっと雄叫びならぬ雌叫びをあげ続けている!
その形相もまったく人が(ヤギが)変わったようで、舌を出して大口を開けて目を見開き、
「オエ~~!」
と渾身の力を込めた大声で鳴く!
ようやく子離れしておとなしくなったと思った矢先、今度は男・・・いやフジイくんにご執心!
自分を取り戻したのか!はたまた、我を忘れて、といった感じだ。
乳絞りのために綱を外して小屋へ連れて行こうとすると、
猛ダッシュでフジイくんのいる方へ走る!
急勾配の下りであるからして、またもやいつぞやの二の舞をしては大変だ!と、綱を手放すに限る!
そうすると、フジイくんめがけて突進!
フジイくんの方もそれに呼応してすずらんの方へ走り寄る!
なんか映画のワンシーン恋人達の再会みたいな感じではあるんだが、
獣だからロマンティックのかけらもない!
(待てよ!ここでかかった日にはまずい!)
と急いですずらんを取り押さえようと私も走る!
フジイくんとすずらんはお互いの匂いを嗅ぎあいまさにトキメキ合いだした!
(やべえ!)
急いですずらんの綱を掴み取り、すずらんをフジイくんから引き離すべく綱を手繰り寄せ始めると、
「邪魔なヤツが来たな。」
「そうね、邪魔が入ったわね。」
ってな具合にすぐさま体勢を整え、フジイくんすずらんの後ろに回り込む!
「バカ!や、めろー!」
綱を一気に引っ張りすずらんを引き離そうとしたが、早業フジイくんすかさずすずらんに覆いかぶさる!
(やべ!・・・入ったかな?!)
思わずじっくり見ようと思ったが、そんなことより引き離せー!っと綱を引っ張りすずらんを引き離した!
うーむ、もしかしてかかっちまってたらどうしよう!
メスの子ヤギが生まれればいいが・・・いや!そんなことよりオスだろうがメスだろうがこれ以上ヤギが増えたら、俺は、お、俺は!
ペーターのように日がな一日ヤギの番をしなきゃならん羽目になる!
ヤギで生計が立つならともかく・・・
んー、食料はヤギ乳だけで生きていくことも可能かもしれないからそれも不可能ではなかろうが・・・
いや待て!ヤギ仙人ならまだいいが、ヤギ乳仙人などという異名を持ったってこれはなんか実に変態っぽいじゃあないか!
あかんあかん!
ほんとならこの時期にかかれば子ヤギが生まれるのは5ヶ月先の夏。エサは十分すぎるほどあるから都合は良いが・・・
今でさえ食肉処理をしてやろうかと・・・お~おぞましい!
しかし、みんな肉を食べている。
ヤギを飼うというのは、現代の社会風刺でもある。
いろんなこと考える。
それにしても昨夜はあのわめき声で鳴いていたすずらんが今は静かなのが気にかかる。