乳2

地球人は法治国家がこの世を治める最高の仕組みのように思っている。

法治国家は当然なるべくしてそうなっている当たり前のことのように思っている。


性悪説から出来たとしか思えないこの世の法律がどれだけ陳腐なものか。

その法律がないと無法地帯となってひっちゃかめっちゃかの世の中になってしまうとするなら、

それがまともな大人とは言えないはずである。


このように実に遅れている地球人であるが、中には自分を偉いと思っている人もいる。


己治国家、いや己治社会というものこそ自立した人間社会の理想的本来の姿である。

己自身が己を治める。

己を制するものは世界を制する。

規制されたり監視されたりしてもらったりする必要のない自立した個が集まってこそ真の平和で幸福な社会である。

そんな社会はすべて自己責任。

自己責任だから自分で責任を取れることをするし責任を取る覚悟であらゆることを成すはずである。

そんな人達の社会では自分の不幸や過ちを人のせいにするなどということは毛頭考えられないことである。

人に迷惑をかけるなどということも思いもよらないことである。

完全に自立した個がお互いに協力し合う。それはおそらく地球人の考える「助け合う」というレベルのことではないだろう。

まずは自立ありきだから「助ける」というよりむしろ前向きに「協力する」「力を合わせる」というニュアンスの方が合っているはずだ。

そんな社会ならどんなに自由で幸せなことだろう。

 

仮にここ島のSARAIに集落が出来、そこが特別条例により「己治区域」に指定されたなら、

ヤギ乳の加工品、チーズやらヨーグルトやらがなんの法の規制も受けずすぐに自由に作って売り買いもしくは物々交換なりの取引がおおっぴらにできる!

しかし、上記のような現在においてはアバンギャルドに過ぎる考え方は紙くず同然なのであるからして、

私は、ヤギ乳およびヤギ乳加工品を独占的に楽しむより他にない。


あのすーちゃん(快調に乳を提供し始めてくれたすずらんを今日から「すーちゃん!」と呼ぶにいたっております。)の乳が出なくなって以来、

苦節9ヶ月。

私は毎日毎日(俺はいったい何をやってんだ?!)と思うくらいにヤギ達に泣かされてきた。

「今度は君たちが泣く番だ!」

といって極悪非道を働くわけじゃありません!

とうとう夢にまで見たヤギ乳1ℓ以上が現実のものとなった今、私は失敗を恐れず果敢にヤギ乳加工品を作りまくっちゃうわけである!

 

朝、乳を搾り、薪となる枯れ竹を切り出し、バベの倒木もチェーンソーで切り刻み持って帰り、ヤギのエサを山で採集し配り歩き、

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土日のイベントの準備をし、それからヤギ乳加工に入る。毎日金にならないやらねばならぬことが山ほどある!実に阿呆な生活である!

雨が降ろうが雪が降ろうが寒かろうが暑かろうが関係ない。

 

まずはプリン!

できた!

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食べた!

うまい!

けど、普通にプリン!ヤギ乳だからって特別何か変わった味がするわけでもない。

しかしそれはそれで凄いことかもしれん!クセがないおいしいってことだから!


次にリコッタチーズに挑戦!

そうです!とうとうチーズにたどり着いたのです!

レモン汁か酢を使うってことで、レモンがないので、

島ではとにかく重宝がられているダイダイを使用してみる!ダイダイはそこら辺になっている!

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煮込む。

煮込んでいると固まりが出来てくるというクックパッド情報なんだが・・・

なかなか出てこない!

不安になる。

鍋を凝視する。(この図はきっと端から見たら異様な光景だったろうな。)

しばらくすると何やら粒状のものが!出来始めた!

と思ったらプ~ンとチーズらしき匂いがしてくるではないか!

私の興奮は一気に高まり、

「おっしゃ~!こりゃなんかイケそうやでー!」

だんだん固形物が大きくなり、明らかにチーズらしきものが浮遊し始めた!

もうこれは完璧じゃないか?!

もう私は嬉しくて嬉しくて笑いながら泣きそうな状態になって

「チーズやチーズや!」

と叫ぶ。(この図はさらに端から見たら異様であったろう。)


また食い入るように鍋を見つめる!しかも泣きそうな笑顔で!


そしてとうとうクライマックス!牛乳が固形物と分離状態になってきたら火を止め漉す!

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こ、このガーゼにくるまった真っ白なリコッタチーズはあのすーちゃんと僕の共同作業で生まれたまさに宝!宝石以上のものなんである!ヤギ乳500ccから84g!

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もう馬鹿丸出し状態でウホウホとはしゃぎまわり、思わずつまみ食いしたその味は!

ダイダイのほんのりさわやかな風味らしきものがなにかサーッと何気ない薫風のように一瞬過ぎ去り、

後から口の中に広がるのは全然クセのない軽いチーズの香りと軽い濃厚さ!

食べた後も口の中に何も後味が残らないさっぱり感!

こ、これは!瀬戸内海のリコッタチーズ!

とりあえずちょっとしか食べてないからよくは分からないがチーズはチーズである!

このリコッタチーズの実力は明日ピザにしてみて初めて明らかになるだろう!

生産者苦節9ヶ月の特権である!


ということで、これらのヤギ乳加工品は未だ文明の遅れた地球世界にあってはここ島のSARAIでさえ己治区域ということにはならないため、

皆様に堂々と召し上がっていただくことができない!

あるいはこんな世の中でもおおやけの力が働いてここ北木島に一大ヤギ乳加工施設が建設されて「北木島発瀬戸内海が香るダイダイとヤギ乳のリコッタチーズ」なんて言って大々的に生産販売したなら

それは島にとっても笠岡にとってもみんなにとっても面白おかしく美味しいことであると思うが、

そんな洒落たことのできる粋な人もなかなかいないであろうから、やっぱり皆様のお口に入るのはなかなか難しい!


でもきっと「完全な自立」を意識してこの島のSARAIに来てもらえたらみんな美味しい思いができるはずである。


乞うご期待!