せとうち暮らし
昨日島のN氏が2人の若い女性を連れて来られた。
香川から笠岡諸島巡りに来たと言う。
よく聞けば、「せとうち暮らし」という年3回の季刊誌の編集長と副編集長。
今まで香川県の島を取材してきたが今年から瀬戸内海全域の島を対象にするらしい。
笠岡諸島もターゲットのひとつのようで
今回は下見で駆け足で周っていたので詳しいことはわからないが、
N氏のところに置いていった「せとうち暮らし」今春号を少し読ませてもらった。
あの石川直樹氏のインタビュー、宮本常一の特集、周防大島特集・・・
とてもいい雑誌である!
この雑誌のコンセプトを引用させていただくと、
「せとうち暮らしは、瀬戸内海の島と陸をつなぐコミュニティー・マガジンです。
高齢化や過疎が深刻化する島での暮らしや文化を、次の世代へ受け継ぐために何ができるか。
私たちが考えたのは、まず「島の情報」を伝えることでした。島を訪れ、自分たちの足で歩き、目で見て、聞いたことをお伝えする。特別な非日常ではなく、すぐ隣にあるもうひとつの暮らしとして、「せとうち暮らし」では、普段着の島の暮らしをお届けします。」
とある。
若い人がこれだけのしっかりした雑誌を編集出版して地方から全国に情報発信しているというのは実に素晴らしい!
この雑誌に登場した民俗学者の宮本常一氏の存在は知っていたが著書は全然読んだことない。
しかし、島で暮らす以上宮本常一氏の著書はぜひとも読んでおかなければ!と思わせていただいた。
島暮らしを始めてからホントに活字から遠のいてしまっていた。
が、必要な文献はなるべく時間を作って読んでおかなければ!
もうひとつこの雑誌から引用させていただくと、
「シルクロードの名付け親であるドイツの地理学者リヒトホーフェンは、瀬戸内海についてこう述べている。
『広い区域に亘る優美な景色で、これ以上のものは世界の何処にもないであろう。将来この地方は、世界で最も魅力ある場所の一つとして高い評価をかち得、沢山の人々を引き寄せることであろう。(中略)かくも長い間保たれてきたこの状態が今後も長く続かんことを私は祈る。その最大の敵は、文明と以前知らなかった欲望の出現とである。』」
私はこのリヒトホーフェンさんほど世界を知らないが、同感である。
リヒトホーフェンさんがこう書いたのは明治の頃であって、確かに彼の予言どおり「文明と以前知らなかった欲望の出現」のために当時の面影が大部分失われてしまった。
僕が以前海外の旅から帰って来る度に思ったのは、
海外にだって素晴らしい自然や景観はある。日本以上と言ってもいいものがあるかもしれない。
しかし何かが違う、それは人に及ぼす印象だと思うが、それは僕の感じたところでは、日本の自然というのは自然が人を育て人が自然を育ててきた長い長い共存の歴史が刻まれた繊細で豊かなものである。
だから諸外国に見るダイナミックで美しい自然とは、見る人に与える印象は一線を画するものがある。
あちらは自然は自然なんだな。
こちらは自然に生かされているという自覚を持った人々の生活と
その自覚から当然生まれるはずの自然への愛情によって守り育まれた自然なんだと感じる。
戦後から現代までに人間が忘れ失ってきた「心」の力によって維持されていた自然。
「島」にあっては陸以上に外界との交流が不便な場所であるから、周りにある豊かな自然を大切に活用していかないと生きていけない。
よって余計に自然への愛情は強くなるに違いないと思う。
(どこの島にも猫が多いというのもこういう理由によらないとも限らない)
ここに今後の未来の創造のヒントもあるわけで、
きっとそういうことを宮本常一氏も書いているに違いないと思う。
日本は世界の縮図で日本の島々は日本の縮図、と考えるものだが、
僕が今北木島で暮らしているのも結局はそういう理由によるものだと、
「せとうち暮らし」をきっかけに改めて思った。